第2章 天下人の女 〜高飛車姫〜 【織田信長】 《R18》
勢いのまま走り出してしまったが、久々の馬の扱いに若干の不安があったものの体がまだ覚えているようで、なんとか乗りこなせている事に安堵した。
以前、乗馬に心得のあるばあやにこっそり頼み込んで習っておいたおかげだわ。
「まさかこんな時に役に立つとはね。
──とにかく急がなくちゃ」
陣立書によれば戦場はここからそう遠くはないけれど、どこまで拉致されてしまったのか見当もつかない私は光秀様を頼りに追いかけるしかない。
──信長様は今どこに捕らえられているのだろうか。
あれだけ強さを備えているのに、何故、どうして。
それに、舞まで拐われるなんて……
大切なものを奪われていく状況が
恐ろしくてたまらない。
たまらない、けど。
「約束したもの。生きていると信じてるわ」
揺れる馬上で、そう己を鼓舞していると。
頼りにしていた蹄の音が、いつしか消えている事に気づく。
「……?光秀様?」
すっかり日が落ち、辺りは薄暗くなっていて、私を取り巻くのは木の葉のざわめきだけ。
はぐれてしまったのだと理解したが諦められず、まだ誰かが残っているであろう戦場を目指した。
引き返すという選択肢はなかったのだ。
──そうやってややしばらく走っていると、少し離れたところから人の声が小さく聞こえてきて。
進行方向をそちらに変え、一体何事なのかと向かった。
距離が縮まるにつれて、耳に入ってくる話し声も大きくなり……
馬を止めて手綱を木に括りつけると、近くまで歩いていった。
───すると。
「きゃああああ!誰か助けてぇぇ!!」
辺り一帯に響く女の叫び。
この声は……!