第2章 天下人の女 〜高飛車姫〜 【織田信長】 《R18》
「私、現代…いえ、すごく遠いとこからここに来たんです。
だから知り合いも誰もいなくて、心細くて。
みんな優しいし親切にしてくれるけど、何でも話し合えるような女の子の友達は一人も出来なくって。
だから、茅乃さんと仲良くなりたいなーってずっと思ってたんです。
茅乃さんがお祭りに行く夢が叶ったのと同じで、私も願いがひとつ叶いました」
そういえば事あるごとに私のもとを訪ねてきていた。
今日だってそう。
友達──か……
なんだかくすぐったいわ。
でも…
喜ばしいはずなのに、釈然としない。
「叶ったついでに暴露しちゃおうかな。
私ね、今好きな人がいるんです」
「……。へえ」
「いきなりなんなのって感じですよね。でも女友達と恋愛話してみたかったんです。
それで…その好きな人と最近、急接近できて。
ちゃんとした告白はまだ言い出せずにいるんですけど…
相手の人の態度とか仕草を見ていると思うんです、同じ気持ちを抱いてくれてるんじゃないかって──」
嬉しそうに喋り続ける舞の言葉が渦のように頭の中を巡り巡って、意識が支配されていく。
信長様の縁談相手だと知っていながら何故そんな話をしてくるのかと勘繰ったが……
彼に以前散々悪態をついていた私の姿を見て、恋敵ではないと判断したのだろう。
形だけといえどいずれ正室となる私の存在は、この子にとって疎ましいはず。
──けれども。
そんな邪心など微塵も持たず、
頬を染めてはにかむ彼女は風になびく可愛らしい一輪の花のようだ。
ああ、だから彼は、彼女を選んだのね。
釈然としなかったわだかまりが腑に落ちて、“諦めろ”と言うもう一人の己の声が聞こえた。
「両想いになったら、真っ先に茅乃さんに報告しますね。応援してくれますか?」
喉の奥が引きつって、言葉がでてこない。
少し間を置きやっと絞り出たのは──
「頑張って」の一言だけだった。