第2章 天下人の女 〜高飛車姫〜 【織田信長】 《R18》
「隣国で不穏な動きがあってな。光秀に探らせた結果、どうやら反勢力の連中が我々の隙を覗っているという。
よからぬ芽は早々に摘み取っておかねばならん。───故に三日後、こちらから奇襲をかける」
「……。そういえば最近家臣達が忙しなく動いていたのはその為だったのね」
「ああ。
まだ正式な縁談も結んでいない貴様を巻き込む訳にはいかぬ。明日にでも帰れ」
彼の言ってる事はもっともだ。
一旦身を引き、戦が終わった後また縁談話を進めればいい。
頭では理解できてる。
だけど……
「…分からないじゃない」
手に力が入り、ぎゅっと指同士が摩擦する。
「生きて帰ってこれるか分からないじゃない。万に一つでも、もしもの事があったら…」
万に一つ、もしも織田軍が敗けてしまったら縁談どころじゃない。──もう逢えなくなる。
いくら強いといえど、戦場において“絶対”の二文字は保証されない。
私は一国の姫として生きてきたのだ、戦のなんたるかを知っている。
「貴様は、この俺が死ぬとでも?」
「そうじゃないけど……でも…っ」
この不安な気持ちを故郷に持ち帰って、ただじっとして便りを待つしかないなんて…
そんなの、嫌。
「じゃあ生きて帰る、と直に証明して。
私はここで、貴方を待つわ」
「……。
何故に?そうまでする理由は?」
理由ですって?
まだぼんやりとしかしていない。
でも、口に出せば何かがはっきりするかもしれない。
「──だから私は、貴方のことがっ……」
するとその時。
障子の向こうから呼ぶのは、彼を慕う繊細な声音の主───
…………
いやね、私ったら。
何を言おうとしているの。
信長様の心はもうとっくに舞のものだったのに。