第2章 天下人の女 〜高飛車姫〜 【織田信長】 《R18》
「なんで貴方まで出てくるのよ!」
「このような童男が好む遊びをまさか普段気取っている貴様がやるとはな。
そこはかとなく興味が湧いて馳せ参じたまでだ」
「…そう。
まあいいわ。魔王はこの私が成敗して差し上げます!」
わぁっと大きな歓声が上がり、はやしたてる口笛まで聞こえてくる。
──この投げ駒の戦い方は単純。相手の駒を台から弾き落とした方が勝ちだ。
両者向かい合わせに立ち腰を落とす体勢で構えると、店主の合図と共に駒を投げ放った。
激しく回転する二つの駒……
そのうち私の駒が信長様の駒にぶつかりながら、台の端の方へと追い詰めていく。
「いいわ!その調子よ!そうよ、そのまま落としてやっ…」
しかしその瞬間、信長様の駒は突如として回転の速度を増し、私の駒を徐々に押し返して…
拮抗する互いの駒は強く弾け合い、二つとも台の下へと落下した。
「あ…相打ち…?」
「引き分けのようだな。さてどうする?」
「もちろん勝負がつくまでやるわ!次は負けなくってよ」
闘争心に火がついた私は駒を拾い上げ、すばやくそれに紐を巻いていく。
「…手慣れているな。どこでそれを?」
「独学よ。家臣の子ども等が遊んでいたのを見様見真似でね。
だから母上の目を盗んで勉学の合間によく練習していたわ。
私、やりたいことはとことん挑戦したい主義なの」
「ほう」
放った駒が再び台の上で踊りだす。
ぶつかっては弾け、ぶつかっては弾け……
それからもしばらく相打ちが続いた。
「なかなかやるわね貴方」
「貴様もな」
「でも勝つのはこの私よ!覚悟なさい」
「ふ、小癪な奴め」
そんな煽り合いのような会話を交わしつつ戦っていたのだけれど……
だんだんと気になる事が増えていった。
威圧感のある冷え切った眼差しや不敵な笑みはいくらでも見てきた。
…けど。
今こうしている時の彼の表情はそのどちらでもない。
なんか、こう、人間味があるというか。
───この人ってこんなふうに笑えるのね。
そう感じながら、ただただ見つめていた。