第2章 天下人の女 〜高飛車姫〜 【織田信長】 《R18》
仄かに光るいくつもの提灯、食欲をそそる香りを漂わせる出店の数々、賑やかに行き交う人々───
すごいわすごいわ!こんなに派手な装飾や人がたくさん…
これが祭り……!
未知との遭遇に心が躍り、きょろきょろと全体を見回していると。
駆け寄ってきた多くの町民達が信長様を囲ってなにやら頭を下げてひっきりなしにお礼している。
何事かと秀吉様に尋ねてみたら、意外な話を聞けた。
「今回の祭りで使う材料や出店にかかる費用などは全て御舘様が負担している。売り上げた儲けはみんな町の人々のものだ。
──民の心が死ねば町も死ぬ。荒んだ世で生きる下々の者達にせめてもの潤いと活力を──そう仰られていた」
なるほど、だからああやって崇められているのね。
他国の者達が噂している通りてっきり私腹を肥やしてばかりいるのかと思っていたけれど……実際は違うようだ。
「茅乃さん、これ食べてみてください。政宗のお薦めなんですよ」
舞に声をかけられ、ハッと我に返る。
ほんの少しよ、ほんの少し感心しただけよ。認めた訳じゃないんたから──そう言い聞かせながら、差し出された焼き菓子を口に運んでみる。
「…っ、美味しい…!」
「口に合って良かったです。他にも色々あるのでお店回ってみましょう」
「行くわ。案内しなさい。
…あっ!ねぇあの店、どうしてあんなに面が飾ってあるの?ひとつ頂きたいわ」
「ああ、あのお面は子ども向けの娯楽用商品で…
…って茅乃さんあれ付けるの!?」
あれもこれも試してみたくて、欲が止まらない。
目に映るもの全てが物珍しくて、私は興奮気味に案内役の舞を連れ回し始める。───
「…すごいはしゃぎっぷりだね、あの子。
なんか変なお面買ってるし」
「ははっ。豪華な飯を出せと吠えていたのに出店の食い物には喜んでかぶりつくなんて急にどうしたもんだか。まるで別人だな」
「我儘そうな感じは変わらないけどね。…まあ舞も楽しそうにしてるし、いいんじゃない」
金平糖を購入しようとする信長とそれを阻止する秀吉、茶屋から差し入れられた茶をみんなに配ろうとした三成が地面に何もないところでつまづいていた時──政宗と家康はそう話しながら二人の行方を見つめていた。