第2章 天下人の女 〜高飛車姫〜 【織田信長】 《R18》
横抱きにされているものだから、顔がすぐ近くにあって。
悔しいけれどこの上なく綺麗な容姿に見入ってしまいそうになるほどだが、惑わされまいとその腕の中から離れた。
癪だけど、相手が誰であろうと助かったことに変わりはない。
「……騒がせたわね。私はこれで失礼するわ」
押しつけるように仔猫を渡し、足早に去る。
二人からだいぶ遠ざかった時に背中越しに何か言葉をかけられたけど、わざわざ振り返って聞き返すのも面倒だった私は、そのまま歩き続け自室を目指した。
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「姫様、ご覧くださいな。このような上等な履物は見た事がありませぬ」
そろそろ夕刻になろうとしている時、侍女が嬉々として持ってきた箱の中には一足の草履。
上質な素材で出来た造りで、鼻緒にはなんとも美しい刺繍が華やかに施されている。
贈り主は、なんとあの男だという。
「なんでもいつもの草履は鼻緒が切れかかっていたようで、信長様が代わりにと用意して下さったのです。お優しい方でございますね」
──そう。信長様の元から立ち去った時。
木に登るため草履を脱ぎ捨てた事を途中で気付いたのだけれど、揶揄われるだろうと思って裸足のまま部屋まで戻ってきたのだ。
あの時背後で何か言ってたのはきっと草履を置き忘れていると伝える為だったのだろう。
それにしても今まで私に対して無関心だった彼が贈り物を寄越してくるとは……。