第2章 天下人の女 〜高飛車姫〜 【織田信長】 《R18》
「本日も精力的なお務め、頭の下がる思いでございます。
どうぞこちらを」
それは普段通りの光景だった。
自国のみならず他国の情勢についても互いにやり取りを交わし、意見を擦り合わせていく。
そしてしばらく経った頃。
手渡された報告書を読む信長の様子を覗いながら、光秀はおもむろに口を開いた。
「とりあえず今現在、各国にて不穏な動きは無いようですね。表向きは」
「ああ」
「しかし少なからずとも隙は出来るもの。良からぬ企みがあれば必ずや尻尾を掴んでみせましょう。
あえて無関心を装って核心を探る…身の周りの対人関係においてもそうであるように」
「……あえて装う、か。そんな回りくどい妙技を得手としているのは貴様くらいだろう」
「お褒め頂き光栄です」
ーーー少し間を置いて。
「で、貴様は今誰の核心を探っている?」
「それはもちろん、御館様の道を阻む全ての輩達ですよ」
「はぐらかしても無駄だ」
「ふ、どうやら貴方には妙技が効かぬようだ。
では真っ向から真意を聞き出してみましょうか。近頃話題の奥方様について」
「周りの者達はどうか知らんが俺は一切話題にした覚えはないがな。
貴様が縁談を薦めてきたあのつまらん女の事など」
「おやおや、冷たいお言葉。
そのせいか随分と荒れているようですよ。侍女に当たり散らし雄叫びを上げるほどに。
くくっ、面白い…いや、可愛らしい方だ。
器量、教養、家柄、どれも申し分ない。何が気に喰わないのです?」
「気に喰わないと言った覚えもない。
ただ…あやつのつまらん外面に辟易しているだけだ」
「外面、…ねぇ。
ーーー………ん………?」
開きっぱなしになった障子と戸板の向こう側ーーー景色の良い外界から微かに聞こえた声に気付いた二人は天主の外回廊に出て、何事かと下を覗き込んだ。