第2章 天下人の女 〜高飛車姫〜 【織田信長】 《R18》
「何のご用ですの?」
少しだけ開いた襖の隙間からジロリと睨みつけた先には、おずおずとこちらを窺う舞の姿。
「あの…昨夜のことなんですけど…
信長様との時間を邪魔してしまってすみません。茅乃さんが居るとは知らなくて…
次からは気を付けますね」
「……」
「あと…
私達まだちゃんと二人きりでお話したこと無いし、もし良かったら後でお茶でも飲みに城下へ出掛けませんか?
行きつけの店に美味しいお団子があって…」
「今日は気分が乗りませんの。
お断りしますわ。では」
「あ…」と何かを言いかけた舞の目の前で、ぴしゃりと襖を閉じた私は。
割ってしまいそうなほど強く握り締めた空の湯呑を、侍女へ乱暴に差し出した。
なにが“次からは気をつけますね”よ。
わざと余裕を見せつけに来るなんて…たいした自信じゃない。
ああ、ますます怒りの炎が滾ってきたわ!
「姫様、朝餉が届きましたよ」
「食欲無いの。下げて!
それとねぇ、朝といえど料理はもっと豪華にしろと伝えておいてちょうだい!
私を誰だと思ってるのよまったく…
ばあや、お茶おかわりっ!」
神経を逆撫でされた事で更に苛々が止まらず、次から次へと見えるもの全てに噛みついていたその頃ーーー
「ーーーてな訳でさ、厨の女中達に献立の相談されちまってよ」
「へえ…我儘な女。ついに本性表したって感じだね」
「まぁどの女にも我儘はつきものだ。
それに俺はキツい美人は嫌いじゃない」
「一応ここに嫁いでくる子なんだから手は出さない方がいいですよ、政宗さん」
「んー?そう言われると燃えるなあ」
「はぁ、この人は…」
業務報告を済ませた政宗と家康が去る様子を確認した人影は、くすりと笑いを漏らし。
二人と入れ違うように天主へと赴き、障子越しに声をかけようとした。
「……光秀か。入れ」
「足音だけで察するとは。さすがですね」