第2章 天下人の女 〜高飛車姫〜 【織田信長】 《R18》
ーーー気のせいなんかじゃなかった。
やっと真実がはっきりしたの。
いくら話しかけてもまともに応じてくれず、興味すら示してくれず、会話も外出も置いてけぼり。
挙げ句の果てに。
身体を差し出しても、まるで
“鬱陶しい”
口に出さずともそう物語るような、あの冷ややかな目。
要は、
存在を拒絶されているという事。ーーー
……なによ。
なによ!
なんなのよ!!
「ふざっけんじゃないわよぉぉぉ!!」
翌朝、自室にて。
着替えの途中、悶々とする思考を巡らした末ありったけの声で怒りを爆発させると、私の帯を締めていた侍女の動きが一瞬ピクリと止まった。
「この私があれだけやったっていうのになんなのよあの態度は!
この私よ?この私がよ!?もっと有難がるべきでしょ!
それなのにまるで眼中に無いってどーいうこと!?」
「姫様、お声が大きいですよ」
「数々の殿方を虜にしてきたこの私が袖にされるなんて有り得ない。おかしい…おかしいわよ絶対!美的感覚どーなってる訳!?
度重なる仕打ちと無礼…許さないわよあの男〜〜〜っ!」
「姫様、喉が枯れてしまいますよ。お茶でも飲んで潤いを」
「しかも私というものがありながらあの女に夢中なのよ!?あの平凡な女に!
馬鹿にして…」
昨夜、天主を追い出される際にちょうど舞が訪れた。
なにやら頬を赤らめて恥じらうあの顔…これから男に抱かれようとしている女の顔だった。
…憎たらしいったらありゃしない。
体裁上、私はお飾りの正室として仕方なく置いておくだけで真に寵愛するのはあの子ってこと?
二人して私を馬鹿にするなんて許せないわよ。
「ああっ!腹が立つ!
…そうだ、こうなったら祝言当日に姿を消して故郷へ帰ってやろうかしら。
ん…、いいわねぇこの作戦。
“花嫁に逃げられた天下人”なんて噂が広がるわよきっと。
私を侮辱した罰よ!見てなさいよぉ〜、恥かかせてやるんだからっ!」
いつの間にか着替えも終わり、
息継ぎも忘れてまくし立てた後、侍女の手から奪い取った茶を一気に流し込んでいた……その時。
襖の向こうから今一番聞きたくない声がした。
「あ…あのぅ…
茅乃さん、中に居ます…よね?
私です。舞、です」