第2章 天下人の女 〜高飛車姫〜 【織田信長】 《R18》
このまま順調にいけば確実に心を鷲掴みにできる。
そう、思っていた。
しかし……
「失礼致します、信長様。一杯どうぞ」
程なくして夕刻の頃合いになり宴が開かれ、私はさっそく信長様のもとへ酌をしに赴いた。
ちらりとこちらを一瞥し、猪口を無言で差し出す仕草……
渋いわ。なんて男らしいのかしら。
「信長様の素晴らしいおもてなしに私感激ですわ。それにこのお城の造りも素敵ですし家臣達はとてもあなたを慕ってらっしゃる…さすが天下人になられる御方」
「……」
「茶会も盛大かつ華やかで…私ったらあの時色々と出しゃばってしまってごめんなさい。皆様を盛り上げようと、つい…。
でも芸事はどれも得意なんです。いかがでしたか?」
「……」
「そういえば信長様は敦盛の節がお好きで桶狭間での戦の際に舞踊を披露されたとか。
粋ですわぁ〜、是非今度私にも見せ……」
「舞、酌を頼む」
なるべく謙遜しつつ、かつ相手を立てて誉めちぎる話術を仕掛けているというのに。
そんな私を余所に、信長様は返事もせず酒を呷ると舞を呼び寄せ二杯目の酌をさせていた。
……え?
「信長様!今日もお疲れ様でした。
私お茶会って初めてだからたくさん失敗しちゃったかも」
「構わん、形式に囚われる必要は無い。ああいうのはゆるりと楽しむものだ」
「よかった、少しホッとしました。
あ!そうそう、スマホ復活できそうなんです。バッグに乾電池式充電器入ってるの今朝気付いて…使ってみたいって言ってましたよね!」
「何?それは朗報だ。そのかんでんちしきじゅうでんき…とやらにも興味がある。とにかく後でじっくりいじらせろ」
「ふふっ、よろこんで」
………
え?
この状況は一体?
なんだかよく分からない言葉を並べる舞と楽しげに会話する信長様の横で、私は呆気にとられるばかりで……
その後も最後まで口を挟む隙もないまま、宴はお開きになってしまった。
どうしたのかしら?
私があまりにも美しいものだからお話すらできないくらい照れているのかしら。
きっとそうよ。
……
でも…
何か変ねぇ。
自信はあるものの、ほんの少しだけ抱いた違和感。
気のせいだと己に言い聞かせたけれどーーー