第2章 天下人の女 〜高飛車姫〜 【織田信長】 《R18》
ばあやの情報によると彼女の存在が公に知られるようになったのはつい最近のことで、何らかの諸事情によってここへ身を寄せているという。
…あら、次は家康様や三成様と気軽に会話を楽しんでいるわ。
どうやら政宗様だけではなく他の方々とも親しい関係を築いているようね。
それにしてもなんだかひとつひとつの所作が不慣れな様子で、とても深窓の姫とは思えない感じだけれど…
まあいいわ。
あの程度の器量じゃ、私の敵ではない。
「お加減は如何かな?茅乃姫」
「結構なお服加減でございますわ、秀吉様。
もう一服所望したいところだけれど…
皆様たいぶ和んできましたしこのへんで和歌を披露させて頂いてもよろしいかしら」
「おお、それはいい。是非堪能してみたい」
信長様の意向でややくだけた様式の茶会が中盤に差し掛かった頃、
主催者でありお点前役の秀吉様に自らそう申し出た私は。
打ち合わせ通りに侍女が用意してきた墨と筆を用いて、さらさらと短冊に綴っていき……
一同の注目を浴びながら、
しとやかに控えめに、それでいて堂々と、抑揚豊かに詠み上げた。
「ほう…なんと美しい響き。見事だ」
「さすが御館様の奥となるお方。素晴らしい」
感嘆の息を漏らす周囲の反応を横目で伺い、思わずほくそ笑んでしまった口元を扇子で隠す。
渾身の作品ですもの、称賛されて当然よ。
でも私の才はこれだけじゃないの。
「ばあや、次の代物を」
「かしこまりました、姫様」
それからも侍女と連携し計画通りに琴の演奏や舞踊などを披露。
今まで磨きをかけてきた嗜みのあれこれをこれでもかと見せつける。
皆が私の巧みな芸事に酔いしれる中、肝心の信長様はただ黙ってこちらを見据えていた。
きっと素晴らしさのあまり言葉も出ないのね。
ふふ…いいわ、この調子よ!
このまま今宵の宴で追い込みをかけて差し上げるわ!