第2章 天下人の女 〜高飛車姫〜 【織田信長】 《R18》
新たに舞い込んできた縁談は今までとは違い、そう易々と断れないほど極めて重要なものらしくーーー
否応なくあれよあれよと輿入れが決まってしまったのだ。
祝言は一月後だが先方は事前の顔合わせを希望しており、一定期間の安土滞在を余儀なくされることになった私は、従者や侍女と共に駕籠に揺られて城へと向かっていた。
「ふぅ…ついに年貢の納め時ってやつかしら。それにしても父上ったら勝手に承諾するなんて」
次から次へと見初められ、求婚されて、心休まる暇もない中いきなり祝言?あんまりだわ。
でもあの方の名前を聞いたら、断れないのも無理はないと思った。
「ーーー安土城に到着でございます。
姫様、さっそく大広間へ」
旅路の終着点、近江国。
眼前に聳え立つ安土城は堂々たる風情を醸し出していて、門をくぐり内部へ踏み入ればきらびやかな装飾が施されていた。
まさに豪華絢爛ーーー権力と財力の象徴だ。
「お初にお目にかかります。茅乃と申します」
「……面を上げよ」
通された大広間にて。
しおらしく畳に指をつき頭を垂れたままの姿勢で待つ私へ、声が掛けられる。
ゆっくり起き上がると、そこには
上座で悠々と胡座を掻いて脇息にもたれる男が真っ直ぐこちらを見据えていた。
・・・
「あ…あなたが…」
うつけ者だの魔王だのと良からぬ噂を耳にしていたものだからてっきり禍々しい醜男だと思いきや、青天の霹靂。
なんて…なんて端正な顔立ちなの。
これが、
かの名高い尾張の大名・織田信長ーーー
天下布武を掲げ、
飛ぶ鳥を落とす勢いで乱世を猛進し、
日ノ本の頂点を極めつつある存在。
しかもそれでいて眉目秀麗。
・・・
完璧よ。完璧だわ!
この殿方こそ、私に相応しい理想の男性よ!
きっと信長様も美しい私の容姿に魅入られているはずだし、互いにとってこれ以上の好条件は他に無いでしょう。
円満な祝言を迎えられそうね。
理想の条件、理想の相手。
自分はとうとう思い描いていた幸せを掴んだのだ、と喜んでいたーーー