第2章 天下人の女 〜高飛車姫〜 【織田信長】 《R18》
昔々あるところに、
たいへん美しい娘がおりました。
この世に誕生したその瞬間から
蝶よ花よと持て囃され、
富と家柄にも恵まれて何不自由無くすくすくと育ち……
知性を養い、教養を積み、
生まれながらの美貌に更に磨きを掛け、
そして
山より高いプライドを兼ね揃えた、
傲慢かつ高飛車な大人の女性へと成長したのでした。ーーーーーー
「お断りします」
そう返事をして面を上げると、真正面に座する父上の眉がぴくりと歪むのが見えた。
どうせまたお小言が始まるのでしょう?
想定済みよ。
「私、あの方は嫌いよ。目つきが厭らしいわ。それに不細工」
「はぁぁ…また縁談を蹴るつもりか。これで何度目だと思っとる。
あれこれと難癖をつけ断ってばかりではないか」
「嫌なものは嫌なんです」
「いい加減にしないか、茅乃。
男は皆お前に心酔するあまりこのような無礼を働いても多目に見てくれているが…
本来ならば許されない立場なのだぞ」
ほらね。
始まった。
女としての立場がどうのこうの……
うんざりだわ。
「本来ならば、ね。
でも私はそこらの平凡な女達とは格が違うの。選ぶ権利はあるはずよ」
「〜〜〜っ…
まったく、お前という娘は。
だが…この件はまぁいい。
つい先程、この上ない朗報が舞い込んできたからな」
「朗報?」
「安土より縁談の報せが届いた。
ーーーなんとあの御方からだ」
そうよ、
私はいつだって引く手数多なの。
でもね、
そんじょそこらの小物じゃ駄目よ。
不釣り合いだもの。
身分
財力
品格
教養
容姿
全てを備えた相手でなければ納得できないわ。
だから自ら選ぶの。
理想の幸せを掴む為に。
さあ、この私に相応しい殿方はどなたかしら?