第4章 雪上の氷壁 【上杉謙信】
「私が外に出ていかなければこんな事態には…」
「お前のせいではない。全ては奴の蛮行が招いた事」
「でも…その傷は明らかに私のせいです。
私なんかを助ける為に…
もし上杉様ご自身に何かあったら取り返しのつかない事になってた…そしたら私…」
「だが、この通り命に関わる犠牲は何もなかった。だろう?」
「でも…でも…!」
なおも自責の念に駆られて震える茅乃の手を握り、宥めるように撫でる。
「乱世を生きる上で、戦いの中で死ぬのは本望。命を落としたとて構わない。
だが…お前はそうあってはならぬ。
お前がこうして無事に生きている事、それこそが今回得た最も大きな成果だ。だから嘆くのはもうよせ」
意識が戻り茅乃の顔を見た時、心底安堵した。
自分がどうこうよりも茅乃が怪我ひとつ無く助かったという事実に、生きた心地を実感したのだ。
失わずに済んだのだ、と。
「嘆くよりも前を見据えるべきだ。なにもかも片付いた今、お前は忌まわしい過去一切から解き放たれたのだから」
あの男は雪の中倒れているところを捕らえられたのち、まもなく絶命した。
城門前で繰り広げた争いは幸村と信玄が収め、内通者とみられる者達も一掃し、我が軍はこの戦に終止符を打ったのだった。
落ち着きを取り戻した茅乃は俺の言葉に頷き、再び手当ての続きを始める。
「前を見据えるべき…
そうですね、これから私も色々と模索していかなければなりませんね。
ここでお世話になるのも今日が最後ですし」
「…ああ」