第4章 雪上の氷壁 【上杉謙信】
握っていた手中の柄を放り投げれば、
降雪の中、宙を舞う鶴姫一文字────
何なんだ、これは。
何をやっているんだ、俺は。
生涯戦いに身を投じ、刀と共に生きて死ぬと誓ったはずではないか。
なのに、何故。
戦場から離脱し、
敵将を討ち取る事すら放棄した挙げ句、
刀を投げ捨ててまで、
たったひとりの女を助けようとしているのか。
何故だ、何故────……
………………
……ああ、そうか。
もう二度と、愛する者を失いたくないからだ。
茅乃の後を追って斜面の頂から飛び降りた謙信は、その小さな身体を捉え、眼下に迫り来る衝撃から庇うように両手で抱き締めると……
肌を掠める冷たい風を感じながら落下していく中、ゆっくりと瞳を閉じた。