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【イケメン戦国】夢心地の宵

第4章 雪上の氷壁 【上杉謙信】





講じた策の全貌は、茅乃には黙っていた。
内通者だと疑っていた訳ではない。
ただ、生きる希望を見出したあの笑顔を曇らせたくなかった。暖かな光が宿り始めたあの瞳を再び凍らせたくなかったからだ。

今夜は最も安全な場所に寝床を用意し、血生臭い争いから遠ざけたはず…だった。

ところが。

騒ぎを聞きつけた茅乃は護衛の制止を振り切って外へ飛び出し、この戦いを鎮めようと無謀にも伴侶を説得しに向かおうとしていたようで。
その矢先、何者かによって攫われてしまった───

敵軍壊滅まであと一歩という今、この場を離れるべきではないと頭では解っていた。









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「お願いです、離して下さい!」

「いいからさっさと来い!」


西側の中腹にて、ある一人の男に腕を引かれて連れ回されていた茅乃は、掴まれている手を必死に振り解こうと抵抗するも力及ばず、強引に歩かされ続ける───


「どうやら護衛共は撒いたか。居所を嗅ぎつけられる前に急がねば」

「この手をお離し下さいませ!離して…っ
御館様!!」

「…久しいのう、お前にそう呼ばれるのは。
まさかまた生きて会うとは思わなんだ」


にやりと口の端を吊り上げる男を見上げた茅乃の背筋に寒気が走る。
死んだと思っていた夫が目の前に現れ、ましてや城に攻め入ってくるとは想像もつかない事態であり…
説得を試みようとしたものの、通じる相手ではないと悟った。


「先の戦で逃れる際、僅かでも時間稼ぎになるよう敵陣の中へ放り出したというのに…死罪になるどころか随分と活きが良さそうではないか」

「……。
あの時…壁となれと申し付けたのは、ただの時間稼ぎ…ですか。ご自分が助かる為に私の命を差し出したのですね」




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