第4章 雪上の氷壁 【上杉謙信】
「上杉だ!単独で突っ込んでくるぞ!」
「怯むな!押し通せー!!」
最前線に躍り出れば、一気に群がってくる有象無象。
身を低くして走り抜けながら、四方八方から突き出された切っ先をかわし、行く手を阻む者は残らず斬り捨てていく。
あちこちから矢を放たれるも、鬱陶しく飛び回る羽虫を払い落とすかのように全て刀で弾き返した。
「ふん…、小賢しい」
俺を殺れるものなら殺ってみろ。
如何なる斬撃が繰り出されようと、矢の雨が降り注ごうと、決してこの身体は止まらぬ───。
「なんという巧妙な太刀筋と身のこなし…束になって掛かっても全く歯が立たん」
「これでは我が軍の敗北は必至…!どうすれば…」
「どうもこうもあるものか!朽ち果てるまで戦うしか道は無い!」
戦況はこちら側優勢のまま時間が過ぎていき、僅かに残った敵兵達はもはや敗北を悟っているようで…
捨て身で奮闘する者、怖気づく者が交錯し、総崩れそのものの様相だった。
───勝利は目前。しかし肝心の標的をまだ仕留めていない。大将である“あいつ”だ。
後方で控えていると思いきや、姿さえも捉えられない。
一体どこへ…まさかまたもや逃亡したのでは…
取り逃す訳にはなるまいと、行方を探していた時。
「……っ、」
突如、煙幕に包まれて周辺が霞がかる。
傍らに感じるこの気配…誰の仕業かは解っていた。
「お前か、佐助。
何のつもりだ?頃合いが悪いにも程がある」
「承知しています。ですが…お伝えしなければならない件が」
「斬り刻まれたくなければ手短に話せ」
「茅乃さんが何者かに攫われてしまったようです。護衛が追っている最中ですが…彼等だけでは心許ないかと」
「────!!」