第4章 雪上の氷壁 【上杉謙信】
途中、信玄がこちらの姿に気付き、目配せを送ってきた。
「…どんぴしゃり、だな」
そしてすれ違いざま、一言投げかけると。
邪魔な雑兵共を捌きながら、俺は前へ前へと走り抜けた。
───首実検の際、信玄が立てた仮説はこうだ。
寺院で見たあの首は影武者のものであり、我々を欺き、油断を誘い、好機を狙って攻め入る為の布石ではないか…と。
仮説ながら腑に落ちた俺は、策を仕掛けた。
ついに敵将の首を手に入れたという御布令をわざと町中に出したのである。城で盛大な祝の宴を催したのも、こちら側がそう信じ込んでいると見せかける為の演技に過ぎない。
おそらく末端の者が内通していると踏んだからだ。
酒に浮かれて隙だらけのところを突いてくるだろうと予想し、幸村や佐助、信用の置ける家臣達にのみ内情を知らせ…飲む量はほどほどに、いつでも動き出せるよう準備をさせておいた。
信玄の仮説通り、やはり“あいつ”は生きていたようだ。
生きていれば何か仕掛けてくるのではないかと思っていたが、こうも予想通りになるとは…
「なんと浅はかな奴よ。……命知らずめ」
ぐっと足先に力を込め、敵味方双方が入り乱れる中を突き進む。
こんなところで小物を相手にしている暇はない。
この手で始末してやりたい奴は一人だけだ。
「謙信様!やっぱりここまで出張ってくると思ったぜ」
前衛の陣地まで辿り着くと、そこで家臣等と共に戦っている幸村と出くわした。
なかなか見事な健闘ぶりである。
───だが…
「…まったく、人の楽しみを減らしおって」
ここから先───最前線で刀を振るうのは俺だ。