第4章 雪上の氷壁 【上杉謙信】
………
………来たか。
壁にもたれ掛かったまま“その時”を迎えた俺は、待ちくたびれた腰を上げて部屋を出る。
城内を右往左往する者達の合間を縫うように歩き進んでいくと、どこからともなく佐助の気配が背後に降り立った。
「───状況は?」
「城門前で侵入を食い止めているところです。兵力は大した数ではありませんので圧倒的にこちら側に分があるかと」
「最期の悪足掻き…か。一匹残らず蹴散らしてくれる」
外へ出ると敵陣の中に見覚えのある旗が風に煽られているのを目の当たりにして、満を持して“死んだはずのあいつ”が勢力を引き連れてやってきたのだと確信する。
城門前では一足先に信玄・幸村率いる部隊が敵方の軍勢と交戦を繰り広げていた。
前衛で攻防しているのは幸村だ。
「闇討ちするたぁいい度胸してんな、てめぇら。舐めてんじゃねーぞ。
俺は今すこぶる機嫌がわりぃんだ。覚悟しろ!」
押し寄せる敵兵の波を十文字槍で次々と薙ぎ倒し、侵入を防がんとする。
そこから辛くも突破してきた者達を、後方で待ち構えている信玄が迎え討っていた。
「おーおー、荒れてるねぇ。花札で負けた事がそんなに悔しかったとは…昔っから幸は負けず嫌いだからなー」
幸村を見守る呑気な笑顔から一転、すっと冷静な表情に切り換わり迫り来る相手を容赦なく太刀で斬り払っていく。
無駄な動作ひとつ見当たらない力強い刀捌きは、病を患っているとは感じさせない気迫を放つ。
闇討ちを企てたにも関わらず城内に侵入すらできずにいる敵兵達は焦りを隠せない様子で、統制に乱れが生じていた。