第4章 雪上の氷壁 【上杉謙信】
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そしていつしか宴もお開きとなり、外もすっかり暗くなった頃。
まだ呑み足りないと言う茅乃を連れて広間を離れ、本丸の部屋へと場所を移した。
火鉢の傍で暖を取りながら、肩を並べて酒を酌み交わす。
「すみません我儘言っちゃって。久々のお酒なもので…」
「構わぬ。俺も深酒はよくする」
こやつが主張を通すとは珍しい。
ほろ酔い気味で終始にこにこと微笑み、口数も多く、ここまで上機嫌な振る舞いは今まで見た事もなく新鮮だ。
「はぁ…今夜は楽しかった。こんなにも楽しい宴はいつ振りかしら」
「特にあの勝負は白熱していたな。今回信玄とは引き分けになったが次は倒す」
「ふふっ、お二人の知略を駆使した戦いは手に汗握りました」
あの後、花札勝負はもつれにもつれ幸村と佐助は陥落、信玄との一騎打ちとなり結果勝敗はつかなかったが皆が盛り上がる中、酒が入っていた事もあり茅乃は年頃の娘らしくはしゃいでいた。
宴の最中に起きた笑い話を語る様子は生き生きとしていて、それを肴に呑む酒はいつもより美味く感じる。
「随分と変わったな、茅乃」
「そう…ですか?」
「ああ。──良い顔になった。
変わったというより、それが本来のお前の姿なのだろう」
「………」
盆の上から猪口を取り、つ…と酒を少し口に含んだ茅乃は、ひとつ間を置いて静かな声音で再び話し始めた。
「確かにそうかもしれません…しかし…夫である御館様を亡くしたというのに涙も流さずこうしてお酒や遊び事に興じている私は、上杉様の目には非情な女に映るでしょうね」
「何を言う。お前はこれまで彼奴の脅威に独り耐え忍んできたのだ。呪縛から解き放たれた今、己を卑下する必要などない」