第4章 雪上の氷壁 【上杉謙信】
「…そこまで言って下さるのなら…ありがたく受け取る事にします。真田様に改めてお礼をしておかなくては」
「ああ」
「それにしてもほんとすごい量…結び目締まるかしら」
大量の菓子をこぼさないよう苦戦しながら風呂敷で包んでいる茅乃の髪に糸くずが付いているのを見つけ、取り除いてやろうとした。
──が。反射的に避ける仕草をされて、手を止める。
確か以前もこんな事があったはず。
常に虐げられてきたのだ、不意に手を掲げられると防衛本能が働いて身を庇う動作はもはや癖になってしまっているのだろう。
「…っ、あ…すみません、私ったら大げさに…」
申し訳なさそうにおろおろと狼狽える茅乃をよそに、思案を巡らせた俺は「少し待て」と伝えて一旦その場を離れた。
そして……
「上杉様、その子達は…」
そこら辺で跳ね回っていた兎共を捕まえ、両腕に抱えて戻ってくると、茅乃は一瞬驚いた顔をしたが直後すぐにパッと笑みを咲かせた。
「可愛らしいわ。名前はなんと?」
「右腕にいるのは梅だ。左の方は松、竹という」
「あらまぁ、縁起が良さそう」
それぞれに話しかけながら、優しい手つきで毛並みを撫でる。どうやら動物は好きらしい。
「それにしても何故このように兎達を…」
「───策を考えた」
「策?」
「こやつらを身につけておけばお前が怯える事もあるまい、とな」
「ふふ、可愛い護衛ですね」
どうすればあの恐怖におののく強張った顔を和らげられるのかと考え、はじき出した苦肉の策が兎とは…稚拙な手法だが、茅乃が笑っているならそれでいい。