第1章 はじまり
「犯人に心当たりはあるか?」
『…そんなのありません』
「今までだってあなたが食べてたのを知らなかった」、なんて言い返せるはずもなく。
最後の一つとなったお稲荷さんを泣く泣くお供えする銀時の後ろ姿は少し小さく見えた。
今は物陰に隠れて祠を見守る。
『(て言うか、私が誰が犯人だろうと良いんだけど)』
「来たぞ!」
そんな言葉を発するものだから覗こうとすれば頭を押し付けられてしまい見えるのは地面だけ。
「やっぱりアイツかッ…!」
銀時が一体誰の事を示して「アイツ」と言ったのか分からなかったが彼は私の上をひょいと飛び越え祠の方へ出て行った。
「神威手前ェ!!」
「ん?」
足元の砂を払って私も銀時の後を追う。
そこにいたのはフワフワと浮かんでるもの。
オレンジ色の髪にアホ毛がゆらゆら揺れていた。
「あっ、キミがスズメに油揚げをくれた人?」
「おい? 銀さん無視されること多くね?」
「スズメ達から話は聞いたよ」
最後の一つであったお稲荷さんを一口でペロッと平らげれば、また銀時がぎゃーぎゃー騒いだ。
『......ぇと...スズメの恩返し…?』
「あははっ、それは良いね」
ニコニコした顔で言う目の前の彼等は冗談なのか本気なのか分からない目をしていた。
「此奴は"鵺"だよ」
『"鵺"…』
この前、読んだ妖怪事典に載っていた。
確か…
【鵺-ぬえ-】
日本で伝承される妖怪。
猿の顔、狸の胴体、虎の手足、蛇の尻尾という姿(文献によって異なる)。
鳥の声を持つ。
一説では雷獣だとも言われる。
「スズメ達が美味しい油揚げ貰ったって言っててさぁ」
「そんな事言われたら気になるじゃん?」
「噂通り絶品だったね」
有難いのか分からないが、お稲荷さんは大好評だ。
「俺、神威」
「よろしくネ」
またややこしいのと知り合いになってしまった。
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