第1章 はじまり
昨晩「明日、また作ってお供しましょう」と先生に言われた通りお稲荷さんを作って外の小さな祠にお供した。
パンッ、パンッ
手を合わせて大きめの物を三つほど置く。
「チチ、チュン」
聞こえてきた高く鮮やかな声に振り返れば、匂いに釣られてきたのか数羽のスズメが居た。
『もしかして、お腹空いてる?』
『...ちょっと待ってて』
流石にお供物はスズメにあげられないので一度台所へ戻り余ってる油揚げを取りに行く。
案の定、『待ってて』の言葉を忠実に守って先程の場所とあまり変わらない所をウロウロ落ち着きなく歩き回っていた。
『お待たせ』
『食べて良いよ』
油揚げを細かくちぎってスズメ達の前に置いた。
元気よく食べる姿を見届け今度は台所を片付ける為に戻る。
「んー、良い匂いがしますね」
『おはようございます、先生』
台所顔を出す先生は鼻で息を吸い込んで良い匂いのするこの場を満喫していた。
『今日はお稲荷さんですよ』
『味が染み込むまでもう少し待ちますか?』
「......頂きましょう」
「あ、でも...うーん...」
腕を組んで真剣に悩む先生に少し笑ってしまう。
結局我慢出来なかったのか「...食べます」と決め、二つほどお皿に乗せて渡した。
「ん~! やっぱり絶品ですね」
『先生のレシピですよ』
「自分で作るのと人が作ったのは違いますよ!」
『...そうですか』
熱弁するのを軽く聞き流しつつ、立ち食いは行儀が悪いと台所から追い出した。
『さて、』
今日も、一日が始まる。
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