第1章 はじまり
夕日が傾き辺りがだんだんと薄暗くなる。
九尾の狐、銀時に一日絡まれながらも先生に頼まれた山菜を採り終えた。
不思議な事に、銀時は悪い奴では無かった。
私に絡みつく小さな物の怪を祓ってくれたり、ちょっかいは出してくるが山菜に詳しいようで色々教えて貰えた。
『(あんな妖は初めて)』
「またな」と言われ彼とは別れたが、"また"が存在するのだろうか。
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『先生、』
沢山の山菜を手に帰って来たが良いが、どうやらタイミングが悪かったようだ。
丁度、玄関から出てくる人は下町の人間で、私は思わず物陰に隠れた。
「吉田さん、アンタまだ"鬼"を匿ってるって?」
「"鬼"?」
「惚けねぇでも良い、アイツはやめとけ」
「...誰の事を言っているのか分かりませんが」
嘘だ。
先生はわたしが"鬼"である事を知っている。
「ご忠告有難うございます」
「ですが、私の家族ですので」
その言葉に、言葉が出ないのは私も町の人も同じだった。
何処か威圧の含まれた先生の言い方は私の足の力を抜かしその場に座らせた。
「、お帰りなさい」
壁に寄り掛かったまま座っていると横から先生が顔を出した。
先生は私が隠れていることさえお見通しだった。
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『先生、私は何時でも出て行きますよ』
先生が迷惑なら言う事を聞くし、今までの恩はいつか必ず返すつもりだ。
一人で生きていけないほど、もう子供でもない。
「あの人が言ってたのを気にしてるのですか?」
『私は、"鬼"だから』
「いいえ、"鬼"は彼等です」
『......』
先生は、さも気にしていない風に装い、採ってきた山菜の天ぷらを「サクッ」と良い音を立てながら食べた。
「が出て行きたくなったら行きなさい」
『...もう少し、居させてください』
「今は居たいだけ居れば良い」
ちゃんと味見をしたはずなのに、今日のお味噌汁は少しだけしょっぱかった。
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