第1章 はじまり
「あまり遅くなり過ぎちゃ駄目ですよ」
『分かってます』
「手拭いは持ちましたか?」
『先生、』
「あ、ちり紙は?」
『先生、大丈夫ですから』
心配症の先生は玄関先で何度も確認した。
まだ何か言いたそうな先生を待っていたら限りがないのでもう一度だけ『大丈夫ですよ』と伝えて玄関の戸を開けた。
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「きゃっ、きゃっ...!」
「あっ、神社の子だ!」
「神社の子、神社の子」
木々が生い茂る林の中へ歩みを進めるとそんな声が聞こえてくる。
子供の様なはしゃいだ声。
でも、子供など居ない。
『あっち行って』
足元にくっ付く複数の綿毛の様なものを払う。
小さな物の怪だ。
私の目には普通は映ってはいけないものがたくさん視える。
昔からだ。
この体質のせいでどれだけ苦労した事があるか、とても数え切れない。
「遊ぼーよ!!」
『遊ばない、あっち行って』
「なんで? なんで?」
払っても払ってもめげずにくっ付くタチの悪い小さな物の怪にイライラするが、私には先生のようにお祓いする力はない。
「おい、餓鬼共」
どうしたものか、なんて考えていると上から言葉が降ってきた。
声がどこから聞こえてこようが私にとっては不思議ではない。
『(今度は何...)』
面倒臭い予感しかしないが仕方なしに上を見上げれば人間にも似た男の子が木の枝上で横になっていた。
人間にも似た、なんて表現したが勿論それは人間ではない。
「きゃっ、きゃっ、」
「九尾だ!!」
「"九尾の狐"!!」
しかしながら足元にくっ付いていたモノノケは嬉しそうな声を上げて離れていった。
「ったく...」
「ん?...お前、松陽ンとこの…」
それが銀時との出会い。
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