第1章 はじまり
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『先生ー、ご飯ですよ』
生まれてから19回目の春を迎えた。
庭の木々は緑を色付け始め、花は蕾を開いた。
『温かい内に食べてください』
作ったばかりの味噌汁をお椀に流し込み、お盆に乗せて運ぶ。
「おや、今日も美味しそうですね」
『今日も、ちゃんと美味しいはずです』
「ふふ、そうでしたね」
全ての料理を机に並べ終え、一枚の座布団の上に座った。
「いただきます」と手を合わせ、お漬物から一口。
「二人で食べるご飯は美味しいですねぇ」
『...はい』
「そう言えば今日は"お客様"が来ますよ」
『......なら私は外に出てますね』
此処は下町から距離のある離れの神社。
目の前で私が作った料理を美味しそうに食べてくれる彼は「吉田松陽」と言う、ここらでは有名な神主だ。
私は先生と呼んでいる。
「一人で大丈夫ですか?」
『もうそこまで子供じゃないですよ』
「...それは、失礼しました」
『笑わないでください』
私と先生は血こそ繋がっていないが家族だ。
私にはちょっとした特徴があって、それが原因で町の人達から疎まれ捨てられた。
それを拾ったのが先生だ。
「外へ行くなら山菜を取ってきてください」
「少しは暇潰しになるでしょう?」と気を使わせてしまった。
先生の言う"お客様"とは町の人間で、私を捨てた人達の為、こうして来客がある時は人目につかない所で時間を潰すのだ。
『分かりました』
沢山取ってきますね、
小さく笑って見せては「ご馳走様でした」と手を合わせて食器を片付けた。
私はずっと"鬼"から逃げている。
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