• テキストサイズ

【ヒロアカ】華恋【轟焦凍】

第3章 夏幻[R18]




高校二年生の夏休み。
友達の誘いで大型ショッピングモールへと出向いた。

特に買いたいものがあるわけではなかったから
のんびりとウィンドウショッピングをしている時のこと。


「食い逃げだー!誰かそいつを捕まえてくれー!!」
「誰がっ、捕まるかよ!!」


平和な筈のその場に不釣り合いな叫び声が
背後から響いてきた。

声のする方へと振り向けば
避けるようにして人々は逃げ出し
そうして出来た道は
一直線にこちらへと伸びていて。

そこを駆け抜けてくる食い逃げが
蜘蛛の糸のようなものをこちら目掛けて
飛ばしてくるのが見えて
咄嗟に友達を突き飛ばしていた。

何とか友達を軌道から外す事は出来たものの
自分がそこから避けるだけの
反射神経と運動神経を持ち合わせていなくて
蜘蛛の糸らしきものが身体に巻きついて
身動きがとれなくなり
人質として捕まってしまった。

周りに一般客は大勢いるけど
プロヒーローがいる気配は感じられない。


「何だ?この香りは…」


いつ来るかわからない救けを待つよりも
自分で何とかしなくてはと
何故かこの時の私は考えていて
公共の場で"個性"の使用は原則禁止だけど
自己防衛の為だ。

私の"個性"は"幻香"
首元の汗腺から特殊な香りを放ち
それを嗅いだ対象は私の姿が
親しい女性の姿に見える。

香る範囲はとても狭いけど
ここまで近くにいれば効く筈。

どんな姿に見えるのかわからないから
有効打になるとは限らない。
これは賭けだ。

もしその姿を見て少しでも油断や隙が生まれれば。
もっと言えば私を捕らえてる腕の力が緩まれば。
逃げ出せる。

どうか、上手くいきますようにと
いつもなら使うことを渋る"個性"を
発動させていた。


「マリ…?」


けれど、そう簡単に物事は上手くいかない。

私を捉える腕の力は逆に強まり
それどころか抱き締められている。
これは多分恋人か思い人の名前。
しかも反応を見る限り
面倒臭い雰囲気しか感じない。


「離して、下さ…い…」
「マリ…会いたかった…」


一度嗅いでしまうと効果は数分続く。
どちらにしても逃げる事は無理だと

結局プロヒーローが来てくれるまで
何とか耐え忍ぶしかないと

諦めかけたその時。


「食い逃げ犯、そいつを離せ」


数ヶ月ぶりに聞く低音が私の鼓膜を揺らした。


/ 29ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp