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innocence

第1章 ガラスの箱庭


「……痛ッ!?」
気味悪さに唾を飲み込んだ瞬間、誰かとぶつかってしまった。
前のめりに倒れそうになったところを、大きな手にグッと支えられる。
「ああっ!?ごめんなさい!怪我してませんか?」
白衣の下の色味が独特な、若いお兄さんがこちらを心配そうに見つめていた。
彼の名札に書かれている『小児科 宝生永夢』の文字に、私は思い当たる節があった。
「ええ、大丈夫です。もしかして飛彩さ……鏡先生のお知り合いですか?」
「は、はい。同じ電脳救命センターの医師です。……失礼ですが、鏡先生とはどのようなご関係で?」
「いや……ただの友達ですよ。それよりこれ、よかったら皆さんで食べてください」
「あ、ありがとうございます……あ、行っちゃった」
未だ疑問符を浮かべている宝生先生にお菓子を押し付け、私は足早に受付に逃げた。
____あの奇妙な女性は、忽然と姿を消していた。

その後、診療を終えた私は、処方箋をもらうため診察室から出た。廊下には落ち着いたクラシックの音色が満ち満ちている。
しかし、私の全身の筋肉はまたも強張った。
______扉を閉めると、あの女性が、虫でも見るかのように無感情な目でこちらを見ていたのだ。
「ひいっ!?」
私は情けない悲鳴をあげ、驚きのあまり飛び上がって尻もちをついた。
体験したことのない恐怖に歯の根が合わないほど震え、玉のような涙がボロボロと溢れ出てくる。
「お前は今何が見える?……何を見てる?」
女性は不安定な足取りで近付いてきて、私の顔を覗き込むようにその場に座り込んだ。
「たゆたう光と闇……それらが一つになる時が来たのよ」
女性が言葉を発するたび、酷い頭痛に襲われ、視界が揺れる。
気が付けば、体の所々がノイズがかっていた。
彼女は帽子の鍔を上げ、素顔をさらした。別人のように憂いと険しさに満ちた顔は、それでもやっぱり私だ。
「知ることを恐れないで。お前が向き合わないことには、世界はくすんだままよ」
伸ばされた手から放たれた光が淡く点滅し、私や辺り一帯を白で一息に飲み込んでいった。
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