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innocence

第1章 ガラスの箱庭


「あれからお身体の具合もよろしいようで、安心しました」
「飛彩、それは本当か!?そうならそうと早く言ってくれればよかったものを……」
「いやはや、偶然とは思えませんなぁ。娘が優秀な息子さんに命を救っていただいたとは……これほど光栄なことはない。どうでしょう?ここはひとつ、飛彩君に郷未を是非ともお任せしたいのですが」
「なんと、お父上から直接お許しをいただけるとは……うちの愚息でよろしければ、是非よろしくお願いいたします。今後とも、聖都大学附属病院をご贔屓に願います!」

お見合いとは名ばかりの会合がお開きになると、父は明日も早いからと車に乗り込んだ。灰馬さんも迎えの車をよこしていたが、飛彩さんが少し話す時間がほしいと訴えたため、運転手を一旦止めてくれた。
「……いいんですか?お忙しいでしょう」
「構わない。急患の連絡も入っていないしな」
2人きりになると、飛彩さんは敬語を取ってきた。先刻は父がいる手前低姿勢になっていただけで、こちらが本来の彼なのだろう。
「あの……さっきは父が随分とはしゃいでしまったようですみません。私としては、お友達からで結構ですから」
「そうか。では友人ということでよろしく頼む。呼び方は……郷未でいいか?」
急に名前を呼ばれて顔が熱くなる。あだ名では何度かあるが、本名で呼ばれたことは、異性の場合数えられる程度しかない。
「あっ、ええ!どうぞお好きなように!」
挙動不審な私を飛彩さんは訝しげに見つめてくる。やはり表情筋はピクリとも動いていないが、眼差しはとても真っ直ぐだった。

その眩しさが、時に私の心を焼くとしても。
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