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innocence

第5章 蒼の目覚め


学校の近くには、私しか知らない穴場がある。
通学路に面した公園の裏の林を抜けると、高台から街を見渡せて気持ちがいい。
本来なら、今日は始業5分前あたりには教室に着くはずだった。
しかし、校門前までたどり着いたところで、知らない記憶が頭の中を駆け巡ってきた。
時々行く空中庭園方向を見上げると、ノイズがかった白黒の映像が飛び込んでくる。
柵の外、不安定な足場に置かれた上履き。……この映像が何を意味するのかは分からないが、何故だかそれ以上足が動かなくなった。
……同じ学校の生徒たちは、急に立ち止まった私のことなど気にも留めず、次々追い越していく。

脳は機能停止していたが、体は勝手に動いていた。
今来た道を逆走し、途中コンビニに駆け込む。おやつが大量に入った袋を引っ提げ、気付けばこの公園に逃げ込んでいたというわけだ。

「……これも味がない。何で?」
朝からずっとこんな調子で菓子をむさぼっているのだが、何故だかどれも味がしない。
バターケーキは無味無臭のスポンジを噛んでいるようで、ミルクカスタード入りの餅菓子は、得体の知れない液体が飛び出す消しゴムと化していた。
……正直、食べていて面白くない。それでももったいないので無理矢理胃に詰め込む。

「っ!?」
ベンチに横になると、小学生ほどの幼い少年と少女が蜃気楼のように朦朧と現れ、私の側で話し始めた。
少年はもうじき引っ越すのだと明かし、少女は嫌だと号泣しながら少年の服の裾を強く掴んでいる。
彼の方が年上なのだろうか。慈愛に満ちた瞳で少女の頭を撫で、こう告げた。
「泣かないで。すぐ会えるって。さっちゃんが危ないときはぜったい助けに行くからね。ぼく、さっちゃんだけの正義の味方になる。約束だよ」

心臓の鼓動が破れそうなほど脈を打つ。
左胸を握りしめると、大粒の滴がボロボロと溢れ出した。
_______昔から変わってないなぁ、クリクリとした大きな瞳。
ねぇ、飛彩さん。やっぱりあなたが「ひーくん」だったんだね。
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