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innocence

第4章 雛月郷未


「……なら、飛彩さんとか?」
下手に先輩などと呼ばれるよりかは、その方が幾分かマシだった。

あれやこれやと話しているうちに、店員が注文品を持って来た。
郷未の前にはキッシュとラテアートが、俺の前にはスフレパンケーキが置かれた。
何故ラテアートまであるのかというと、郷未があまりにも水以外に興味を示さないため、俺が密かに頼んでおいたのだ。

勝手に食事を増やされたのも構わず、郷未はラテアートを口にする。一応クマの絵が描いてあったのだが、彼女にとっては特に愛玩対象ではなかったようだ。
「熱っ!」
「猫舌か。息を吹きかければいい」
二口目からは、言われた通り息を吹きかけてから飲んでいた。
カップを持つ手が両手だったり、一挙一動が子どもじみている。
パンケーキをナイフとフォークで切り分けている間に、郷未はキッシュを一切れ口にしていた。
旨いと感じているなら大いに結構だが、食べかすが口に付いている。
「そんなに急がずとも、食い物は逃げないぞ。……もう少し落ち着いて食え」
みっともないので唇周辺を指で拭ってから、備え付けの紙ナプキンで拭き取る。
「……!?」
何故か郷未は無言で頬を赤らめ、硬直した。手は先ほど俺が触れた部分に当てられている。
そういえば歯の痛みによって発熱することもある。歯科学には疎いので裏付けは取れていないが、生活習慣を考慮すると、何本か虫歯になっていてもおかしくはない。

「お前……熱があるんじゃないのか」
「わっ……へ!?」
服が汚れないよう皿を寄せ、郷未の額と自分の額を合わせる。
「少し熱いな。今日はもう帰った方がいい……郷未?」
郷未は耳まで真っ赤にして、口を鯉のようにパクパク動かすと、
_______________椅子ごとひっくり返った。

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