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innocence

第4章 雛月郷未


図書館に寄ると、入ってすぐのテーブルで郷未が寝息を立てていた。
課題用の文献を借りてからテーブルに戻り、突っ伏して寝ている郷未から潰していた本を奪い取る。
「いだっ」
鈍い音がして、額を押さえながら郷未が起き上がった。
「本が傷むだろう。図書館はお前の寝室じゃない」
「げ……妖怪菓子泥棒」
俺の姿を認めると、郷未は迷惑そうに眉をひそめた。
クッキーを勝手に食べたことをまだ根に持っているようだ。

「ところで、お前は部活に入っていないのか?」
「入ってない……いろいろ厳しい家だから」
明瞭なようで、曖昧な返事。
あくまで親のせいにはしないつもりか。
「ならアルバイトはどうだ。特に禁止はされてないんだろう」
「してるけど、今日はシフト入ってないの」
帰宅部でバイトも休みとなると、普通の女子高生なら近場で寄り道して帰るだろう。
郷未はそれをせず、図書館でひたすら本を読みふけっている。
中にはそういう人物もいるだろうが、郷未が読んでいたのは
『実録 ほんとにあった百物語』……お世辞にも勉強に使えそうなものではない。

「……家に帰りたくないなら付いて来い。その方がよほど有意義に時間を潰せる」
本当なら一人で行くつもりだったが、こいつの低すぎるBMIを適正体重まで上げるためには仕方がない。
腕を引き、立たせると、郷未は小さく肩を跳ねさせた。
が、とくに抵抗する様子もなく、その後は大人しく手を引かれるままになっている。
郷未にとって『手を繋ぐ』こととは、憧れでも何でもなく、自分を逃がさないための一種の脅迫行為なのかもしれない。

……それでも俺は手を離さない。今離せば風船のようにフラフラ飛んでいき、そのまま破滅の道を歩んでしまうような気がしたから。
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