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innocence

第4章 雛月郷未


健診が終わればその後の行動は自由だ。丁度小腹がすいてきたこともあり、俺は昼食をとることにした。

現在時刻は12時10分。大学側は大抵講義が終わって席取り合戦が始まる頃だが、高校側はまだ授業中で外へは出られない。
したがって、カフェもまだ閑散としている。俺は胸を撫で下ろした。これで安心してレアチーズケーキが味わえる。

ランチセットを持って頃合いの席を探していると、さっきぶりの顔が独り紙パックジュースをすすっていた。
机の上に広がるのは、クッキーにロールケーキ、牛乳プリンとお世辞にも食事とは呼べない菓子の数々。
栄養どころの話ではない。それは胃も荒れるはずである。
「胃が弱ってるんじゃないのか。せめて雑炊にしろ」
確か高齢の職員(主に大学側)向けに雑炊の用意などもあったはずだ。
小言を飛ばしながら向かいに座った俺に、郷未は動揺を隠せない。
「何で……あんた、ひーくんじゃないでしょ?放っといてよ」
「年上には敬語を使え」
「だぁーもう、うるさい!聞きたくない!」
露骨に俺を拒む郷未。奥の手として無断でクッキーの袋を奪い取り、封を開けて中身をむさぼる。チョコチップが弾けて、口内に優しい甘さが広がった。
食事前に間食は好ましくないが、こうでもしないと奴は話を聞かない。
「あぁあ……私のクッキー……!」
郷未の声は怒りと悲しみに震えていた。
「……っ何なのあんた!?」
「鏡飛彩だ」
「そうじゃなくて!一回会ったくらいで何でこんな嫌がらせするのよ!私悪いことした!?」
郷未は椅子を勢いよく引き、机を強く叩いた。
________癇癪を起こしかけている。
そう判断した俺の体は勝手に動いていた。
急いで反対側に回り込み、スプーンを投げようとしている郷未の体ごと包み込む。
「……うっ……あ!?」
胸の中で声にならない声が上がる。
彼女の体温は驚くほど低かった。骨が浮き出ているのが服越しにも分かる。
周囲の注目を集めているのは気づいていたが、気にせず続ける。
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