• テキストサイズ

innocence

第4章 雛月郷未


健診といっても簡素なもので、郷未の順番はすぐ回ってきた。
まず、受け取った健康診断票を見て目を剥いた。苗字が拝嶋ではなく「雛月」と書かれている。
一瞬人違いかと思ったが、背格好はともかく、顔の造形が変わっていないことを考えると、選択肢は親が離婚か再婚をしたかに限られた。
しかも、
「ひーくん……?」
郷未はまったく覚えのない名で、俺を呼んできた。
その眼差しは驚嘆と、再会の喜びに似た眩しさに満ちていた。
だが、俺からの反応がないと見るや、澄んだ瞳に暗い影を落とした。
俺が原因か定かでないにもかかわらず、不思議と胸が張り裂けそうに痛んだ。
郷未は何でもないような顔で座り直し、聴診のために制服を少しまくりあげる。
「……っ!?」
気のせいだろうか。脇腹に故意のものと思しき痣が見えた。
「うーん、胃が荒れてるみたいだね。朝ご飯は毎日食べてる?」
「いや……気持ち悪くなるんで食べてないです」
「そうだろうねぇ……ここまで傷んでると、しっかりした食事は逆に体に毒かもしれない。まずはゼリー飲料とか、柔らかいものから挑戦するといいよ」
内科医は落ち着いた調子で郷未にアドバイスを贈り、郷未も素直に頷いた。
後日胃カメラの検査をするということで、診断票には「要検査」のハンコが押された。
/ 34ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp