第3章 白日夢
白く鋭い光が差し込んできて、思わず俺は固く目を瞑った。
明るさに慣れてきた頃には、懐かしい風景が俺を待ち受けていた。アメリカに留学したての頃、一人暮らしを始めた時に借りたマンションの一室。家具は最低限のものしか置いておらず、冷蔵庫は飲料水の宝箱と化していた。テレビに至っては、最早置物状態である。
医学部時代に借りた部屋のはずだが、改めて見てみると、自分でも驚くほど何もなかった。
……シャツにひどく皺が寄っている。どんな体勢で寝たのやら、腕にはくっきりと赤い痕が残っていた。
どうやら、ソファーで雑魚寝してしまっていたようだ。
出し抜けに携帯の目覚ましが机の上で踊り出す。表示された時間は朝8時。俺はソファーから身を起こし、軽く汗を流してから朝食を平らげた。
歯を磨いていると、また携帯が鳴った。今度はメモアプリの通知だ。それによると、今日は近所の高校で健診の手伝いがあるらしい。
というのも、聖都大学附属病院から医師が派遣されているためで、したがって健診補助も医学部側は実習として扱っていた。
意外と脳の理解が追いつくのは早いもので、時間を遡るというありえない体験をしたにも関わらず、俺は再びの医学生生活に順応しつつあった。
_________ところが、ひとたびドアノブを捻るとおかしな光景が広がっていた。
ニューヨークに家を借りたのだから、高層建築に車の往来、都会の喧騒が待っているはずである。
しかし、俺を待ち構えていたのは、東京の落ち着いた街並みだった。下を覗き込めば、旧道を通勤・通学中の人々が行き交い、遥か遠くには赤坂御所のビル群が建ち並んでいる。
「あくまで記憶をもとに再現しただけだから。多少の違いには目を瞑ってよ」
さっきぶりに聞いた声がすぐ下から飛んできた。