第4章 深紅と紫黒
「俺の名前はエドガー・レドモンド。「深紅の狐寮」の監督生さ。ここには高貴で格式高い家柄の生徒が集まる、のだが」
金髪に深紅の瞳を持った赤いウェストコートの美男子が淡々と語る。が、当然俺には彼が何を言っているのかは分かる訳もなかった。彼は手に持った書類を眺めると溜息を吐いた。
「……残念だが君は貴族出身ではない。他の寮に行った方が良さそうだ」
『……』
「聞いているのか?」
『え、えっと?』
「……まぁ良い。紫寮に行ってみるんだ。バイオレットが案内してくれるよ」
*
「あーあ、面倒臭いな。英語話せない上に何ができるかも分からないんだって? クリケットが出来るだけの脳筋?」
フードを被った紫のウェストコートの男が面倒臭そうに呟いた。
「まぁいいや。音楽か美術か選んでくれたらそれでいいよ、弾くか描くか彫るかしてみて」
彼は俺にバイオリンやら油絵具やら何やらを差し出し、どれかを使うように促した。
「使ってよ」
そう言って彼はスケッチブックを片手にソファに座った。
『えっと、じ、じゃあバイオリン借りますね』
近付きがたい雰囲気に負けじとバイオリンを手にとった。いつでも弾けるように調弦も何もかも完璧に整えられていた。
少し前までバイオリンは弾いていた。だから素人というわけじゃない。腕に自信があるかと言われたらもちろん首を横に振るけど。
四つの弦に左指を触れさせ、少し久々の感覚を味わう。楽譜は無いが、感覚で弾けるだろうと願う。右手に弓(バイオリンを弾く棒のようなもの)を構え、肩の力を抜いてそっと弦の上に乗せ、引いた。
*
弾き終わり、ふうっと息を吐いた。上手く出来た方だろうと思う。フードの彼はどんな反応をしているのかと彼の方をみると、彼は黙々とスケッチブックに絵を描いていた。少しもの悲しい思いになりつつもお辞儀をすると、更に声が聞こえた。
「聞き覚えがあると思ったら……古典音楽かぁ?」