第14章 上書-☆
「は、ハーマン、いい、あるける」
「……」
「ハーマン……」
彼は行く先の道を睨み付けるようにして廊下を足早に歩いていた。彼に担がれてる俺は彼の顔色を伺いながら頼んでみるが、聞いていないのか彼は全く俺を降ろしてくれない。
ハーマンは部屋の鍵を開けると風呂場を使うようにと促した。あんなにやられ放題にさられて数時間放置されたのだから彼から見れば俺はとんでもない身なりだったろう。
『わぶっ!?』
風呂場から上がった俺を見るなり彼は俺をキングベッドに放り投げた。イマイチ落ち込む事は出来なかった。けれども彼の顔を見て何かを言う事も出来なかった。
「……グリューネ、本当に分からなかったか?誰かにやられたかも」
「…………うん……」
数年前の感覚。俺は両親を喪った後、親戚に引き取られた。親戚は忌み嫌うように俺を扱っていた。
その中でも親戚の長男は俺に優しかった。だが優しさには条件があった。
毎晩彼に『奉仕』する事。『奉仕』さえすれば俺は彼から優しく、人間として扱われた。
「……ハーマン」
泣き喚こうと、抵抗しようと何回もやられた。酷い時は殴られもした。だけど一時の我慢で優しくして貰える。それだけで俺は……
『……ッ!』
何故か急に身体中にぞわり、と走る悪寒が……その感覚が堪らなく恐ろしい。
気が付くと彼は俺を強く抱き締めていた。
「すまなかった……お前をしっかり見ていなかったばかりに、お前にこんな屈辱をッ……!」
息を荒げた彼が言葉を漏らした。漏らされる言葉の一つ一つが悲痛で。でも俺に何をしようという訳でも無く。ただ俺以上に傷付いたような表情をしていた。
『ハーマン』
我に返って顔を上げる彼に唇を寄せた。
『俺、来てくれて嬉しかったんだよ。ずっと来てくれるって信じてたから』
そう言って再度口付けをした。
深く、刻むように。何度も。
「……グリューネ」
「ん?」
彼の大きな身体に押し倒される。お互いの口内で舌を絡ませながら強く抱き締め合った。
「……良いのか……また、俺に……?」
「うん……おれ。ハーマン、すき」
ベッドに押し倒される。首筋を舐められながら下半身を撫でられた。名前も顔も分からない奴らに犯された所を一つ一つ探ってそこに触れられながら、まるで解毒するかのようにキスした。