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ゆるりふわり

第1章 鳥来月



授業の間の休み時間の度に転校生は俺に話しかけてきた。
どんなに俺がそっけなく返しても 俺が質問し返さなくても
奴はにこにこしてやがる。

こんなに人に構われたことが
近藤さんと土方のアホと風紀委員の奴ら
それから姉上くらいにしかなかったから
正直どうすればいいか分かんねぇ。



「ね 沖田くんは…」
「…」

こうなったら意地でも反応しまいと無視を決め込む。
と 突然イヤホン越しの落語家の声が遠のき
同時に視界いっぱいに転校生の顔が広がった。



「!」



「沖田くんが嫌ならやめるんだけど
私と話するの 嫌?」

いきなり顔近づけて何言ってやがるんでさァ。
柄にもなくびっくりしちゃったじゃねぇか。

「別に…やじゃないでさァ」

そう言うと 転校生の顔が
ふわ、とゆるんで笑顔になった。

「ね さっきから私ばっかり質問しちゃってるから
沖田くんもなにか質問あったら教えてくれるかな?」

「…名前」
「ん?」
「あんたの名前 教えてくだせェ」
「なんだーそんなこと!
昨日も言ったけど…公野公子です」

そう改まって言った転校生の足元は
少しだけ震えていた。



そうだ 俺はとっくに知ってたじゃねぇか
なんだって踏み出す前が一番怖ぇ
だからこそ 踏み出される側が
手を引いてやらねぇといけねぇ。

こいつの勇気は
俺がくんでやらねーとなんねぇんでさァ。



「俺はなんて呼べばいいですかィ」
「え?別にお好きに呼んでもらえれば…」
「前の学校では?」
「前の学校?仲いい子からはハム子って…」
「じゃあ俺もそう呼ばせてもらいまさァ」
「え!?でも仲いい子って女の子…」
「俺が呼んじゃいけねぇって言うんですかィ?」
「いけないことはないけど…
じゃあ私だって沖田くんのことあだ名で呼ぶ!
だいすきな人になんて呼ばれてる?」

だいすきな人。
そう聞いてすぐに姉上の顔が浮かんだ。
「…そーちゃん」
「ふふ わかった!
じゃあ改めてよろしくね そーちゃんっ」
「こちらこそでさァ ハム子」


にこにこしやがって
遠ざけようとしてもついてきやがって
気にくわねぇ。

でも たまには
こういうのも悪くないでさァ。


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