第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「ふふ、くすぐったいわ」
水がなくなってからも、ざらざらとした舌で手のひらを舐められて、マヤは笑った。
リヴァイがまぶしいと感じたマヤの愛らしい笑顔を、狼も好きになったらしい。
不思議そうに眺める黄金色の瞳には、もうかなり警戒の色がなくなっている。
「まだ飲みたいよね? 待ってて」
マヤは泉に水を汲みに戻り、また狼のところまで運ぶ。
今度は差し出された両手の水を、すぐにぴちゃぴちゃと飲み始めた。
「……大丈夫か?」
「ええ、もう大丈夫です。でも…」
マヤは水をあげながら、首だけまわしてリヴァイを見る。
「兵長はそこにいてください。この子が怖がるといけないから」
「……了解」
少々不服ではあるが、確かに一度飛び蹴りをしている訳だし、リヴァイは後方で馬たちとともに見守ることにした。
……本当にマヤってやつは…。
リヴァイは初めて立体機動訓練の森で、マヤを待ち伏せて盗み見したときのことを思い出していた。
……あのときも森の上に出て、空を舞う鳶(とび)に手を伸ばし話しかけていた。変な女だと思ったものだ。だが俺はそんなマヤを愛している。
懐かしく思い出し、ますますマヤへの想いをリヴァイが深めているあいだに、マヤは狼とさらに距離を縮め、怪我をした脚を見せろと言っている。
「ここね…」
狼の左の後ろ足のももの部分に傷口を見つけた。
「待ってて」
マヤは痛さに耐えて小刻みに震えている狼の後ろ足をぽんぽんと優しく撫でると、泉に行きハンカチに水を含ませる。
「どうする気だ?」
「傷口を洗ってあげようと思って」
「そうか」
“手伝う” と言いかけたリヴァイだったが、また狼を怖がらせるから駄目だとマヤに指摘されそうなので大人しく静観することに。
狼のところに戻ったマヤは脚の傷口を水で洗い流して、たっぷりの水を含ませたガーゼのハンカチで優しくぬぐう。
ヒャン…!
「大丈夫よ、あと少しだから頑張ろうね」
小さく鳴く狼にずっと声をかけながら、手当てをつづけるマヤ。
「ねぇ、いいものがあるのよ。これを貼れば治りが早いと思うわ」