第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「そう、じゃあ教えて? イカホに行く道はこっちで合ってる?」
そう訊きながら、狼が入ってきたシダの葉のカーテンの方を指さした。
狼はその黄金色の瞳をゆっくりとまばたきすることによって、YESと伝えてくる。
「ありがとう」
ブルブルブル。
アルテミスがマヤを乗せるために近づいてきた。リヴァイを乗せたオリオンは、狼を刺激しないように遠巻きにしている。
ひらりとアルテミスに飛び乗ったマヤを、狼はじっと見上げている。
「元気でね、狼さん」
クゥン…。
左の後ろ足に水色のスカーフを巻いた狼は、マヤたちが出ていったシダの葉のカーテンをいつまでも見つめていた。
「マヤ、ありがとうな」
「……え?」
リヴァイとマヤは、それぞれオリオンとアルテミスの背に揺られながらイカホに向かっている。
「俺だったら、あいつを蹴り殺していた」
マヤはリヴァイが一瞬悲しそうな顔をしたのを見逃さなかった。
「それは…、あのときはあの子が怪我していたとはわからなかったし…。兵長は私たちを守ろうとしてくれただけです。私の方こそありがとうございます」
マヤが馬上で頭を下げると、途端にアルテミスもヒヒーン!と鳴いた。
「ふふ、アルテミスもお礼を言っているの?」
ブルブルブル。
「……やっぱりアルテミスは完全に人間の言葉がわかっているんだな。いや狼のもか」
「ふふ、そうかもですね。アルテミスはとっても賢いから」
ブルルル、ブルッブルッ!
大好きなリヴァイとマヤに褒められて、アルテミスは得意げに鼻を鳴らした。
そしてそんなアルテミスを、オリオンは愛おしそうに目を細めて見ている。
それから一時間ほど過ぎたころ、日の入りの早い冬のこととてもう暗くなりかけている夕刻。
リヴァイとマヤはイカホ温泉郷にたどり着いた。
「うわぁ…、にぎやかですね!」
なだらかな丘には石で造られた階段がつづき、温泉郷に到着した観光客をいざなう。
その階段の両端には温泉まんじゅうや土産物を売っている店が、びっしりと軒を連ねている。
階段を上りきれば、大きな宿がいくつも建っている。
……すごい! どこに泊まるのかしら…?