第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
ポケットから取り出したのは、ヘングストからもらったドクダミ。帰りの乗船があるので、半分残しておいたものだ。
得体の知れないものを傷口に貼ろうとしているので、狼は拒否をするように後ずさった。
「大丈夫よ?」
そうはいっても、手当ての概念などない狼には理解できない。
傷口を水で綺麗にするところまでは、自分も舐めて治すから理解の範疇なのだが。
「怖い? 困ったわね…」
無理強いはしたくないマヤは、しばし首をかしげて何かいい策はないかと考えていたが、すぐにぱあっと顔を明るくする。
「そうだ、アルテミス! 狼さんにドクダミはお薬だって言ってちょうだい」
「……は?」
リヴァイが二回目の “は?” をつぶやいた。
……おいおい、馬と狼が話せる訳ねぇだろ。
リヴァイの怪訝をよそに、早速アルテミスは盛大に鳴いている。
ヒヒヒン! ブルブルブルブル! ヒンブルルル!
「ね? アルテミスも大丈夫だって言ってるでしょう? あっ、もしかしたら美味しいよって言ったかもね」
笑いながらマヤは狼の傷口にドクダミの葉をそっと当てた。
アルテミスの言葉が通じたのかどうかは定かではないが、狼は今度は拒否しなかった。
「そう、いい子よ」
……マジかよ。
リヴァイはマヤと動物たちとのやり取りに舌を巻いている。
「もうすぐ終わるからね」
マヤは首に巻いていた水色のスカーフをしゅるりと外すと、狼の傷口に貼りつけたドクダミごと包帯代わりにして巻きつけた。
「はい、おしまい! よく頑張ったね」
“いい子いい子” と狼を撫でている。
「……終わったか?」
「ええ。これでもう大丈夫だと思います」
「俺たちはここを出よう。そいつには休息が必要だ」
「そうですね。ここでゆっくり休んで、泉の水を飲んでいれば早く治るわ… きっと」
マヤは狼に別れの挨拶をする。
「狼さん、私たちはもう行くね。あのね、イカホに行くのよ? 知ってるかしら?」
クゥン…。
まるで肯定しているかのように、狼が甘えた声を出している。