第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「あぁ、わかっている」
リヴァイは愛馬と恋人を守るため、一歩狼の方に踏み出した。
「マヤ、そこを動くんじゃねぇぞ」
「はい…」
マヤを比較的安全な泉から少し離れた岩のそばから動くなと命じ、リヴァイはオリオンと狼のあいだへ向かっていく。
ガルルルとうなりながら、牙を剥く狼の目は血走っている。
……こいつはもう、失うもんは何もねぇって顔をしている…。
リヴァイはこの狼の表情をよく知っている。
……地下街でこの顔は嫌ってほど見てきた。人も狼も追いこまれたら同じなんだな。
いきなり馬たちに襲いかからないように、不必要な刺激は避ける。
リヴァイはその脚力で飛べば一瞬で到達できる距離を、静かにそろりと移動した。
オリオンの前に立つ。
信頼する主が自身を助けるべく立ちはだかってくれたことに、オリオンはブルブルと鼻を鳴らして感謝の意を伝えた。
「オリオン、こいつは俺が片づける。お前はアルテミスのそばにいてやれ」
ヒヒン!
オリオンはひと声鳴くと、背後に不安げに立っているアルテミスを愛おしそうに見た。
「さぁ狼よ…。悪いことは言わねぇ、大人しく元来た場所へ帰れ」
リヴァイはあえてファイティングポーズは取らずに、静かに語りかけた。
ガルルル、ガルルル!
「おい、俺は無用な殺生はしたくねぇんだ。帰れ」
リヴァイは眉間に皺を寄せて狼を諭しているが、狼は聞く気は毛頭ないようだ。
ガルルルとうなりながら、じりじりと間合いを詰めてくる。
「チッ、仕方ねぇな…」
リヴァイは仕方ないといった様子で構えると、ひとことつぶやいた。
「……恨むなよ」
そして目にも留まらぬ早業で狼に飛びかかると蹴りを入れるが、そこは野生の狼。すんでのところで跳躍してかわした。
「あっ…」
マヤが何かに気づいたようだ。
……あの狼、今… 脚が…?
「兵長! その子…、もしかして…!」
「あぁ、こいつは後ろ脚を怪我しているみてぇだな」
「待って…! 待って兵長!」
そう叫ぶと、マヤは無自覚で駆け出した。