第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
オリオンの鋭い眼光の先には、かさかさと音を立てて揺れている巨大なシダの緑の葉。
そこは入ってきた場所とは真逆の方向だ。
「兵長…、何か来ます…!」
「あぁ、気をつけろ…!」
リヴァイもオリオンと同じく、愛する女を守るべくマヤの前に立った。
かさかさ…。
鮮やかな緑の葉が揺れて、その近づく者が姿を現した。
「……犬?」
がっしりとした太い前脚でしっかりと大地を踏みしめて立つその獣は、全体的に灰色の毛に覆われている。だが胸元から腹、尾の裏側にかけては真っ白であり、四本の脚も白い。三角にぴんと立った耳の輪郭や鼻…、いわゆるマズルは黒に近い濃い灰色だ。背中から尾の表側の先端まで濃い灰色のラインが通っている。
こちらを睨みつける眼光は鋭く、低くうなるその口元からは牙がのぞいている。
「そんな可愛いもんじゃねぇ…。あれは狼だ」
「狼…? 初めて見るわ…」
北の大地に住む野獣である狼は、書物の中でしか知らない。
挿絵で見てイメージしていたものより随分と小柄であったため、マヤは犬だと思ったのだ。
「思ったより小さいんですね」
「まだ若いんだろ。だが小さいからといって油断するな。凶暴で危険なことに変わりはねぇ」
「ふふ、そうですね」
マヤは緊迫した状況でありながら、なぜか微笑んでいる。
「何を笑っている」
今にも狼が馬たちに襲いかかりそうな雰囲気であるのに笑ったマヤに、リヴァイは眉をひそめた。
「小さくても危険だって兵長が言うから」
そう、マヤは小柄なリヴァイと目の前の狼の姿がだぶって見えて、愛おしさのあまりに微笑んでしまったのだ。
「おい、言うじゃねぇか」
キュイィィィン!
オリオンがまた警告のいななきを発した。前脚を高く上げて自身をさらに大きく見せ、狼を威嚇している。
狼も負けてはいない。ガルルルとうなりながら、姿勢を低くして今にも飛びかかってきそうだ。
オリオンの方がかなり大きいとはいえ、相手は獰猛な肉食獣である狼。オリオンは所詮草食獣である馬だ。
「兵長、このままじゃオリオンとアルテミスが…!」
狼はリヴァイとマヤは眼中にないらしく、オリオンとアルテミスの方だけを一心にねめつけている。