第12章 遠い記憶
ー遠い記憶ー 番外編②
イリス「アンドリュー!!しっかりするんだ!お前まで倒れてしまったら、私は...!!」
アンドリュー「しっかりするのはお前だ、イリス。今お前の力を必要としている人間はどれだけいると思っている?俺はまだ大丈夫だ。それより、お前ができることをするんだ。武器を持たない俺たちにとって知識や経験、そして認識こそが唯一の戦うための武器なんだ。冷静さを...命への認識を失なっちゃいけない!」
イリス「クッ...。分かったよ。行ってくる」
伝染病を食い止めるには薬があまりに足りなかった。私は、ここを管轄していた駐屯兵に薬を王都から運ぶように頼んだ。だが、
駐屯兵「薬を王都から持ってこいだと...?ふざけるな!!そんなことをしたら、王都で伝染病が起きた時に薬が無くなっちまうだろうが!!もういい...伝染病になったやつらは全員、壁の外へ送れ」
イリス「...!?何を言っている!?壁の外だと...そんなの...患者たちに巨人の餌となり死ににいけというのか...?」
駐屯兵「あぁ、そうだ。言っておくが、これは憲兵からのお達しだ。未だ伝染病は治るどころか広がりつつある。このままここにいたら俺らだって危ねえかもしれないだろ?」
イリス「なんだと...!?このクソ野郎が...!!自分さえ良ければそれでいいのか..!!まだ患者は生きているんだぞ..!!」
この件に反発しているのは私だけではなかった。個人で伝染病患者を助けていたキーンという医者もまた、駐屯兵に食ってかかり、そして連れていかれた。
駐屯兵「お前もあぁなりたくなけりゃ、大人しくしておくんだな。」
命への奉仕...それをしたくてここにいるのに、目の前で起ころうとしていたのは殺人のような光景だった。まずは、伝染病で動けなくなった患者たちがウォールローゼの壁の外に放り投げられた。
アンドリュー「...お前は悪くないよ。...お前は十分やったさ。...俺はお前を誇りに思うよ。」
イリス「アンドリュー...。お前だけでも逃げよう。医務官なんかやらなくったって生きていけるさ..!」
私は意識が混濁して弱りきったアンドリューを担いで走った。走って高揚した肌にアンドリューの体がどんどんつめたくなっていくのがわかった。
駐屯兵「お前ら、何をしている..!!」
色に満ちた幸せな時が終わろうとしていた。