第14章 初恋
ー初恋ー 番外編①
団長専用の職務室からは調査兵団の訓練所が綺麗に見え、兵士が訓練に励む様子をいつでも眺めることができた。しかし、俺は、昼間よりも夜、外を眺めることが多かった。
エルヴィン「今夜は満月か...。」
訓練所の真ん中にそびえ立つ大きな木に二人の影が伸びているのが見えた。訓練所は平地となっているため、月の光は真っ直ぐに木に当たって、幻想的なほどに葉や枝の間から光が漏れ出していた。
はじめてミカエルと出会ったとき、ミカエルはまだ恋も知らない少女だった。俺のどうしても焦がれた想いに気づくこともなく、ミカエルは、
「エルヴィンはどうして私と話をしてくれるの?」
と聞いた。俺はあの時すぐに答えることができなかった。そんな俺にミカエルは残念がることもなく、
「やっぱりいいや。私はエルヴィンさんが来てくれるだけで嬉しいもん。」
と言った。
俺はあの日、本心を言えなかったことを一生後悔するとは思ってもいなかった。
ー過去ー
俺の父は教員だった。
ある日、俺はあることを疑問に思い父に質問をした。父は俺の質問にはまともに答えず、そのまま授業を終了した。
しかし、家に帰ったあとで父は質問に答えた。王政の配布する歴史書には数多くの謎と矛盾が存在すると。
その後に続く父の話は、子供ながらに突拍子もないと感じたが、なぜ父がこの話を教室で話さなかったのかを察せられるほど、俺は賢くなかった。
俺が街の子供たちに父の話をして、その詳細を憲兵に尋ねられた日、父は家には帰って来ず、遠く離れた街で事故にあって死んだ。俺の密告により、父は王政によって殺されたのだ。
記憶の改ざん、それが父のたてた仮説だった。
そして、いつからか父のたてた仮説は俺の中で真実となり、俺の人生の使命は、父の仮説を証明することとなった。
訓練兵時代はよく、自分と父が考えた仮説を仲間に話していた。そして、調査兵団に入って、それを証明してみせると。
だが、調査兵団に入団してから俺は、他の仲間が人類のために心臓を捧げている中で、自分だけが自分のために戦っている、自分だけが自分の夢を見ているのだと気付いた。それからは、誰にも仮説を話すことはなくなった。
だが、ミカエルにはその仮説を話すことができた。