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星条旗のショアライン

第7章 スティーブ&ソー(MCU/潜入任務)



(6)

「キャプテン! ソー!」
俺が大声で呼び連なりながら振り返ると大男二人が慌てて俺を俯せの格好で床に押さえ付けて口元を塞ぐ。大方『大きな声を出すな』といった意味だろうが、重大な問題が発覚した今となっては二人の行動こそ誤りに過ぎない。
「レイン……!」
「静かにしろ、フリーマン……!」
(このっ)
頭を下げて尻を上げた不利な体勢から重たい二対の腕を跳ね除けようと暴れるが、やはり体格差がものをいって抑え付ける力がより一層強くなる。とはいえ俺もなりふり構っていられない。
「ふっ……!」
自由な脚で後ろに居たキャプテンを膝のバネを使って思いっきり蹴る。油断していた彼は数メートル先に吹き飛んで、向かいの壁に上半身から叩き付けられた。次に床を蹴ってウインドミルを展開し、上から圧力をかけていたソーを遠心力で振りほどく。退いたソーが困惑にたたらを踏んだことを目端に確認出来たら低い姿勢のまま半回転、勢い付いた脚技をブーツの靴底とコンクリートの床とを擦り合わせるようにして急激に失速させる。爪先から立ち上る煙と漂うゴムの溶けた匂いが威力を物語った。ブラック・ウィドウが仕込んでくれた体術が活きた相手が仲間とは参るけれど。
「頼む。話を聞いて欲しい」
「……言ってみろ」
たっぷり間を取って不承不承ながらソーが発言を許可してくれた。「ただし簡潔に」と彼の後ろから腹を押さえたキャプテンが顔を痛みに歪めながら呟き、歩んでくるのを見上げながら俺は頷く。
「では単刀直入に言う。ターゲットは隣の部屋に居ない」
「どうして分かる」
「ソーが合流する前、女の声が聴こえていたんだが――いまそれが一言も違わずに『リピート』している。つまり俺達が聴かされていたのは『録音された声』だったと言う事だ。どうしてこんなことをすると思う。俺達の注意をこの安アパートの一室に集めるためだとは思わないか。ターゲットが本当の現場で取引を終えるまでの間、戦力と気を削ぐためだとは」
流石に『女の喘ぎ声』とまでは言わなかった。気まずさが何より優ったし、今この場で詳しく説明したところで話の腰を折るだけになると判断したからだ。
かくして俺の口下手な説明でソーは納得のいく返答を得たのか、「わかった、では上から探ってみよう」と吠えてベランダまで駆け、ムジョルニアを回して空の彼方へと飛んで行った。

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