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星条旗のショアライン

第23章 カート・ヴォーン(CABIN/R15)



のそりと巨躯が屈む。光の届かない大木の根元でありながら更に影が濃くなって僕達の表情を包み隠す。その中でも爛々と鈍るブルーの瞳は興奮に鋭さを増した。ガウ、ガウ、と獣の鳴き真似をしながら痺れるくらい低い笑みで唇を震わせつつ、こめかみから頬、頬から顎へと熱を滑らせる。そして外耳を甘く噛まれ、耳裏に強く吸い付かれて舐められて……。なにをされているのか、なぜ僕がこんな目に合うのか、もう訳が分からなかった。
「レイン……愉しもうぜ、誰もここには来ないし、外の方が興奮すんだろ……な?」

(4)

カートの背後で確かに金属が擦れるような音はしたと思った。けれど結局は自分のおかれた状況で頭がいっぱいだったし、自然溢れる森と金属が結び付かなくて無視をした。次の瞬間、僕の胸元に生温い雫が垂れた。夜露や雨粒がカートを避けたとは考えにくい体勢だから、きっとこの雫こそ彼から垂れたものだと確信した。
カートが耳元で金切り声を上げる。低音の金切り声は森に良く響き渡る。咆哮より弱々しく悲鳴より力強い。それがカートに起こった重大な異変を物語った。僕の拘束を解いて直ぐに自分の背中を気にする。必死の形相で、僕にしようとしていたことなんて忘れたようだった。咄嗟に身体を起こして木の洞へ収まるように後退る。視線が大地と平行になったお陰でカートに何が起きたのかが良く見えた。
光芒が照らすその姿は一言で言えば『奇妙』だ。フィクションの存在だったものが現実に現れている。カートの立派な筋肉を剥がさんばかりに噛むトラバサミの先には鎖が、それを視線で辿った先にはゾンビが居た。カートの身長を越すほどの巨躯は生命力を失った淀んだ佇まいで、肌も髪も目も生命力の欠けらも無い。なのに全身を躍動させてカートを引き寄せようと鎖を手繰り寄せる動作には力強さがあった。

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