• テキストサイズ

星条旗のショアライン

第23章 カート・ヴォーン(CABIN/R15)



「ああぁぁあぁっ、痛てぇっ、なんなんだ……っ!!」
「!」
がくんと仰け反ったカートは反動で地に伏した。湿った土に指を突き入れて引き摺られる事に抵抗しようとしていたが、彼程の体躯をもってしても少しずつ『ずる……ずる……』と引っ張られていき、力で競り負けた証が轍を作っていった。俺に助けを求めるカートを見て、一瞬間『見捨てて逃げる』選択肢が脳裏をかすめたけれど、僕を支えてくれた彼との友情にはどうしても嘘が付けなかった。例え偽りであったとしても。
「カート、いま助ける……っ」
抜けた腰を叱咤して覚束無い足取りでカートに近付いて飛び掛る。二人分の体重を認識したゾンビは手応えを感じたのか、より引き寄せ易い格好を探る為に動作を止めた。
――今しかない。そう思った僕はトラバサミに手を掛けた。歯が鋭い罠器具はカートの肩甲骨をがっしりと咥え込んでいる。でも裏を返せば筋肉には到達しておらず、思ったよりも浅い所を噛んでいるのではと判断できた。錆び付いた金具は僕の非力では殆ど口を開かないが、カートが暴れずに大人しく僕の腰にしがみついていてくれたからまだ良かった。
力尽きて手を離すと、トラバサミは『バチン』と物凄い音を奏でながら空気を噛む。血塗れの罠器具には明らかにカート以外の脂や髪の毛もまとわりついていて、いよいよその時になって目の前の化け物の怖さを実感した。
「立って!」
「……っ、くそ……!」
カートは苦痛に呻きながら立ち上がるとゾンビを気にしながらも僕を掬い上げるみたいに一気に抱え上げ、走り出した。驚く間もなく首に腕を巻くよう促され従えば、指先が運悪く背中の傷に触れる。短く悲鳴を上げたカートに謝れば「なるべく触るな」と冷静に諭してきたが、額やこめかみに浮かぶ脂汗は状況の悪化を物語る。彼の身体が熱いのは興奮の為だけではない、きっと背中の傷が早くも熱を持っているに違いなかった。あれだけ不衛生なものが体内を侵したのだから。

/ 263ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp