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星条旗のショアライン

第16章 【長編】2019年 Xmas企画③(MCU/蛛and医)



好奇心が埋まらない限りは止まらないのだろうと分かる集中力だ。腕時計を握ったままの俺の拳が軽く己が胸を突いたというのに怖いほど反応がない。それまで周囲に気を使って小声でやり取りをしていたのに俺が声を上げたせいで注目の的になっているのだが、それにも全く気が付かないのだ。
或いは彼の中である程度の優先順位が出来ているのかもしれない。興味があろうがなかろうが反応を示すのに相応しくない内容だと判断した場合はその直感に従って静観する。
感情の分別を付けてコントロールしているところは素晴らしい反面、枷が外れた際の本能的行動は第三者を著しく脅かすだけだ。自分が落とした腕時計よりも俺の腕――恐らく体内の金属に全神経を尖らせている男性は、ときおり皮膚を指で叩きながら首を捻り続けた。

(4)

「お前の身体を調べたい。来週、メトロポリタン総合病院を訪ねてこい。ドクターストレンジに用があると言えば良い」
「っ!」
『ドクター』という肩書きを耳にした瞬間に自分でも驚く程に怯えた。内臓が一気に縮み上がって背筋が冷え、こめかみまで鳥肌の漣が立ち上ってくる。いずれも分かり易い嫌悪と恐怖だった。原因はヒドラに籍を置いていた際に俺の身体を弄り回したゾラという科学者のせいであることは自認の致すところだ。
アーニム・ゾラはレッドスカルの命令で俺の身体の中へヴィブラニウムとウルを注ぎ入れた張本人だった。超人血清を打ち込んだ肉体とて痛覚は生きている事を重々承知していた筈なのに麻酔無しで胸部を切り開くような男。薬効を得られないとはいえ、その常軌を逸した行いには気弱そうな助手の男も顔面蒼白で立ち竦んでいたほど。
それだけじゃない。どうにもならない激痛のせいで狂った様に泣き叫ぶ俺の内臓を見てうっそりと笑みを噛み、斜視の瞳を瞼の中で転がしながら『美しい』と宣った。マッドサイエンティストとは奴の為にある言葉に違いない。正常な感性を持った助手は体液を撒き散らしてガクガクと痙攣する俺を見た途端に踵を返し、部屋の隅で嗚咽に伏して嘔吐していたのだから。
四次元キューブの力が希少金属と内臓を癒着させている間、興奮に見悶える姿を涙の向こうで見てしまったが最後。それがとどめとなる。どういう方向性で気を昂らせていたのかを表現する事は怖気が走るので控えるが胸糞悪い事に変わりはない。兎にも角にもすっかりそこからは心の棘だ。

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