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星条旗のショアライン

第15章 【長編】2019年 Xmas企画②(MCU/鷹and邪)



矢が飛んできた段階で俺の肌をすわぶっていた方のクリントは人間以上の膂力で地を蹴り、俺ごとデスクから飛び退いたため無傷の様だ。くつくつと嗤う声から牽制にもなっていない事を察してゾッとする。こいつが本物のクリントではないと分かったところで、拘束する腕が強力なあまりに腰から引き剥がせない。それが堪らず恐怖を煽っていく。
「離せっ……!」
「おいっ! どこの誰だか知らないが今直ぐレインから離れろっゲス野郎っ!」
頭に血が上るクリントは気付いていないようだが、弓懸すら付けていない手からは血が滴っていた。雑に射った事で手指を傷つけてしまったようだ。しかしそれを指摘して手当をする暇など勿論無い。
咆哮を一身に受けようと動揺のひとつも見せない乱入者は、再び喉の奥で嗤うと、あっという間に俺の口元と鼻を塞いで素早く後退していく。その先に脱出する手筈があるかのような足取りで。果たして本物のクリントが慌てて腕を伸ばしながら引き留めようと奮闘している目の前で、俺は意識を引き伸ばしながら未知なる輩に異空間へと引きずり込まれてしまった。

(4)

「……っん」
目が覚めた瞬間にぶるりと身震いする。重い瞼を押し上げてビニルのようにぱちぱち鳴る睫毛を幾度かの瞬きでゆっくり解いていく。寒い。震えに従って漏れた熱い吐息が鼻先を掠めて立ち上っていくのを何の気なしに目で追った先、電灯もないのに天井そのものが明るく光っている事に気付く。原理が分からない。しかし原理を知ったところで現状を打破する目的に繋がるとは思えなかった。
……嗚呼、まだ頭がぼんやりしていてならない。拉致されたわりには拘束もされておらず、ただ脚物に座らされているのみで犯人の目的がまるで読めなかった。混乱はひたすら極まっていくばかりだ。背もたれへ体重を預けると椅子が前後に揺れた事からロッキングチェアに腰を下ろしているらしい。緊張の中へぽつんと取り残された弛緩という構図には少し怖気が走る。

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